長年の謎が解けた:Nirvana「Pennyroyal Tea (MTV Unplugged Version)」

謎というほどでもないのだけど、ニルヴァーナの「Pennyroyal Tea」の「MTV Unplugged」バージョンで、演奏を始める前にカートとデイヴのちょっとしたやり取りがあって、どうしてこういう会話をしているのだろう、と聴くたびに思うことがあった。

カート:これは俺一人で演奏しようか?
デイヴ:一人でやれよ
カート:別のキーでやってみようと思うんだけど、まず普通のキーでやってみて、ダメだったらやり直そう

こんなやり取りの後、結局「普通のキー」で「Pennyroyal Tea」のソロ弾き語りが始まり、そのまま最後まで完奏。この曲は「In Utero」のバージョンよりもこの形がベストだったんじゃないかと思える、決定的な名演である。でも、上のやり取りを聞くと、これとは違った形でやろうとしていた形跡が伺える。その「別のキー」って何だ?ソロじゃなくてバンドで演奏する予定だったのか?どうしてデイヴは「一人でやれ」と進言したのか?と、色々疑問だったのだ。カート追悼盤のような形で「MTV Unplugged」が出た1994年から、もう25年以上経ってしまったが、そんな長年のちょっとした謎が、先日になってあっさり解決した。カートが言っていた「別のキー」での演奏が一昨年になって公開されていたのである。


「MTV Unplugged」発表後25年経った2019年に公式にリリースされていた、リハーサル時の演奏。確かに、オリジナルのキーであるAmよりも一音低いGmでスタートして、パット・スメアと二人で演奏している。サビではパットが下のハーモニーを付けているのだが、ずいぶん低いところを歌っていて、どうにも噛み合わない感じ。パット本人も途中で笑ってしまっているぐらい。さらに、一旦演奏が終わってからスタッフ?の提案で、デイヴがギターを弾いてパットはコーラスに専念、というパターンもちょっと試している。アンプラグドだから低いキーで静かめにやろうという試みだったのだろう。カートは、サビで「Sit and drink Pennyroyal Teeeeeaa!!」と何度も声を張り上げるこの曲を、歪んだギターとドラムスの大音響なしにアコギ一本で歌うことに不安があったのかもしれないけど、デイヴはこのリハーサルでの今ひとつ煮え切らない演奏に気乗りしなかったに違いない。だから本番では「一人でやれよ」と言ったのだろう。大正解だった。「普通のキー」でソロ弾き語りのスタイルを選んだことで、あの絞り出すような痛切な声が赤裸々な形で「MTV Unplugged」のCDに刻まれ、後世に残ったのだから。
本番で演奏が終わった後の「良かったぜ」「うるせえ」のやり取りは、照れ隠しなんだろうか

(2021年5月31日追記)このアンプラグド本番の「Pennyroyal Tea」については、もう一つ言及したい点があった。上の動画だと2:45ぐらいのところ、最後の「I’m a…」のヴァースに入る前に、ギターでAmの前に半音低いG#のようなコードを弾いているのだが、カートの没後1994年秋にリリースされた「MTV Unplugged」のCDでは、ここのコードがなぜかカットされていて、最初からAmを弾いているようになっているのだ。おそらく、カートの演奏ミスだと判断されたのだろう。でも、自分はこのCDが出る前、「MTV Unplugged」のテレビ放送時の録画をバンド仲間に貸してもらって見ていた当初から、このG#は意図的に弾いた音だと思っていた。単なるギターの演奏ミスならヴォーカルと合わないはずだから。ミスでない証拠として、カートはサビ終わりの「Teeeeaaa…」の後、ヴァースに入る前に、ギターと同じG#の音程で「Ummmm…」と歌っているのだ。こういう半音上下に揺れ動くコード感覚は、カート独特のものだと自分は思うので、ここのコードを削ってしまうのはもったいないのでは、と前々から疑問だった。CD化された「Pennyroyal Tea」の演奏を聴くと、毎回必ずここで違和感を覚えてしまう。細かい点ではあるけれど、自分がこの演奏について書くのなら、ここには触れなければならなかった。

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