Here Comes The Moon

昨晩はとても綺麗な月夜だった。昨日の夕方は用事で八ヶ岳山麓にいて、夜になって帰りの車に乗り込むときに見えた、真っ暗な森をうっすら青白く照らす月の光の美しかったこと。半月より少し膨らんだ月を囲む星空もまた壮麗で、とてもいいものを見た夜だった。明るく賑やかな街中よりも、暗くて静かな山の中でこそ、月と一対一で向かい合うことができて、その美しさが強くはっきりと感じられる。1時間ほどかけて家に戻り、車を降りたときもまだ、月と星の輝きが夜空を飾っていた。今年もジョージのお誕生日を祝う日々がやってきて、ここに何を書いたものかと昨日は考えていたのだが、やっぱり「Here Comes The Moon」だな、とそのとき思った。
(この曲の訳詞はこちら

自分が「Here Comes The Moon」を初めて聴いたのは1989年のこと。「Best Of Dark Horse 1976-1989」の収録曲としてである。当時まだ、「慈愛の輝き」をはじめとするダークホース期のアルバム群はCDで再発されておらず、自分は87年にリアルタイムで出た「Cloud Nine」以外の作品を聴いたことがなかった。「Thirty Three & 1/3」以降のアルバムからまんべんなく選曲され、ウィルベリーズ仲間のトム・ペティと共作した1989年の「Cheer Down」で締めくくられるこのベスト盤、現在は廃盤で配信にも載っていない状況だけど、自分にとって本当に大切な役割を果たした一枚である。「Love Comes To Everyone」「Blow Away」「Here Comes The Moon」と、かけがえのない「慈愛の輝き」の名曲群をオリジナルアルバムのCD再発よりも前に自分に教えてくれたのが、このベスト盤だったのだ。

IMG_20210224_114118.jpg

ごく個人的な話になるけど、このCDが出た1989年秋は自分にとって一つの大きな転機だった。当時、高校2年生。中学生時代から高校生時代の前半にかけて、自分は「暗い人」と見られることが嫌で、「面白い人」になろうと無理をしていた。小学生時代、当時の流行語だった「ネクラ」のレッテルを貼られたことがあって、それなりにショックだったのだ。ありのままに振る舞って、またそんな風に言われることを恐れていた。でも、道化を演じてみたところで、周りの「友達」は結局のところ自分のことを馬鹿にしているだけだと、高2の夏に気づいてしまった。その年の夏休みはずっと部屋にこもって悩みに悩んだ末、休み明けの秋からは自分を演じることを一切やめると決心した。案の定、それまでの「友達」は「お前、急に暗くなったな」と言って見事に離れていき、ほぼゼロにリセット。それから高校生活の終わりまで、クラスでは孤立した存在になった。放課後の部活では、文化系のクラブをいくつも掛け持ちしてけっこう頑張っていたけど、クラスという場は小さな「世間」である。そこでは自分は決して主流派やマジョリティにはなれないのだと思い知った。自分の立ち位置をこの時期に痛いほどはっきりと把握できたのは、いいことだったと思う。

そんな真っ暗な時期に、自分を月の光のように照らしてくれていたのが、ジョージのダークホース期の名曲群だった。暗くて静かなときだったからこそ、あのベスト盤に入っていた優しい音楽の美しさが強く感じられて、心の奥深くまで染み入って慰められていたのだろう。この記事を書くことにするまで、そのことを明確には認識していなかったけど、心の井戸の深いところまでバケツを降ろしてみたらそんなことだった。高2の秋から冬は「Best Of Dark Horse 1976-1989」が出て聴きまくっていた時期と完全に重なるし、昨晩あの真っ暗な森をほのかに照らす神秘的としか言いようのない月の光を見て、まさにジョージの音楽そのものだと改めて思った。あのとき、ひとりぼっちにはなったけど、今になって思い起こせばそれほど辛い思い出ではない。むしろそれ以前の、疎外されることを恐れて無理に演じていた時期の方が、ずっとしんどかった。高2の夏の決心は間違ってなかったと思う。あのとき残った数少ない友達の一人とは今でもたまにやり取りがあるし、インドに住んでいた頃には仕事で渡印ついでに会いに来てくれたこともあった。ジョージの月の光を感じてからの自分は完全に今と地続き。自分の全ジ連としての本当の原点はここにあったようだ。


「Here Comes The Moon」には「太陽の弟みたい/夜空の星たちの母のようにも見える/月がやってきた」というとても美しい一節がある。ジョージのいい曲では、月とか、雲の移ろいとか、冬が終わって太陽出てきた!とか、よく空を見上げている。歌詞では歌っていなくても夕暮れの空が浮かんできたり。こういうところが好きなのだ。こんな歌が書けるのはジョージだけ。ハワイのマウイ島で見た満月に感激したジョージが「Here Comes The Moon」の歌詞を書いたのは、ちょうど35歳のお誕生日、1978年の2月25日だったという。今日は、ジョージとこの曲の誕生を祝う一日目。お祝いの日に何だか辛気くさい話を長々と書いてしまったけど、78歳のお誕生日を迎える一日目、おめでとうございます!
(2月24日もお誕生日として祝う理由は、去年書いたこちらの記事をご覧ください)

タイトルとURLをコピーしました